クリス・ロング氏
米ネバダ州ワショー郡に住むクリス・ロング氏(51)は、2014年に白血病と診断され、その翌年にドイツ人ドナーから提供された骨髄を移植する手術を受けた。それから5年、彼は法医学をはじめとする専門家たちの注目を集めている。
検査の結果、彼の血液や細胞にはドナー由来のDNAが含まれていることが判明し、さらに驚くべきことには、精液からはドナー由来のDNAしか見つからなかったというのだ。米「The New York Times」(12月9日付)ほか、多数メディアが取り上げている。地元メディア「KTVN」の記事によると、ロング氏は長年保安官事務所の技術部門に勤めており、病気が発覚して骨髄移植を受けると決まった時、同僚から「移植後のDNAを研究できないか」と提案されたという。このような研究は過去に例がないと聞き、辛い闘病を少しでもポジティブなものにしたかった彼は、この申し出を快諾した。
骨髄移植を受けてから、ロング氏は毎日自身の血液サンプルを法医学研究室に送り続けた。血液からDNAプロファイルが解析されてその変化が観察され、手術から4カ月後にはすっかり新しいものに入れ替わっていた。
骨髄移植を受けると、患者の体内では移植されたドナーの造血幹細胞が健康な血液を造り出すようになる。そのため、血液型も変わってしまう可能性があるし、そこに含まれるDNAにもドナーのものが含まれるようになる。また、血液は全身を循環するので、体の各部にもドナーのDNAが現れることがある。この現象はよく知られており、医学的に問題がないこともわかっている。
ロング氏の体にも同様の現象が起きていた。体内におけるドナーのDNAの割合は年々増しており、移植から4年後の検査では、彼の唇や頬を拭った綿棒といった体各部のサンプル、そして精液からもドナーのDNAが見つかったのである。収集されたサンプルのうち、ドナーのDNAが見つからなかったのは胸毛と髪の毛だけだという。
だが、ここで研究者たちも予想しない事態が発覚した。精液中から検出されたDNAはすべてドナー由来のものだったのだ。
このことは2つの大きな問題を示唆していた。一つは、「患者が子供を作ったら、それはドナーの遺伝子を引き継ぐ子供になってしまうのではないか」というものである。ロング氏は移植を受ける以前、2人目の子供が生まれた後に精管切除を受けており、今回の研究ではその精子を調べることはできなかった。
ドナーのDNAしか検出されなかった理由について、精液には通常精子と白血球が含まれているが、ロング氏の場合精子は含まれず、移植された造血幹細胞から造られる白血球のみが含まれるため、ドナーのDNAだけが検出されたのではないかということだ。また、多くの専門家は造血幹細胞の精子への影響を否定しており、子供がドナーの子になるというような事態にはならないとしている。
つづく
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